記憶の糸

自民党がずっと政権与党でやってきて、それでどん詰まりになったので、そこからの脱却の期待を込めて、民主党が政権が誕生した。今から約5年前の出来事です。

しかしその後の政権運営は無茶苦茶でした。民主党がなにをやっていたかは、NAVERまとめがありましたので、こちらのお任せしたいと思います。

で、このときの選挙で、有権者は民主党のなにを見落としていたのでしょうか。それは「目指すべき国家像の不在」と、「実行プロセスの不在」という点だったと思います。

アメリカとの基地問題のこじれや、唐突なるTPP参加表明。子ども手当や高速道路無料化。これらは、明確な国家像不在で、国民の人気とりから政策が出たことと、見通し(実行プロセス)もないのに「できる」といった段取りの不備が露呈したものだと言えます。

そして今回の都知事選の家入氏を取り巻く状況については、このときの民主党と同じ構造に見えて仕方がないのです。

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あてはめてみれば、候補者が老人ばかりなので若い人へという気分、本人の実現したい政策の不在と、その実行プロセスの怪しきです。

■候補者が老人ばかりなので若い人へという気分については、

自民党がずっと政権にいたので、民主党へ、というのと同じです。

■実現したい政策の不在、ということについては、

なるほど、記者会見(@Youtube)を見たところ、「(少数派の)居場所を作りたい」ということを話されていますが、それは都政にとってどれだけ価値のあることなのでしょうか。もっというなら、それは政治がやるべきことなのでしょうか。

それ以外の主要な都政の施策については、インターネットで意見を集めて、その中から良いものを選べばいい、というもの。これでは本人が知事として実現したいことは無いも同然でありましょう。

■また、実行プロセスについては、

なるほど、意見を募集してそこから良いものを選べばよい、というのは聞こえのいい話ではあります。が、ベンチャー企業で意見を募集して実行する場合と、政治で意見を募集して実行する場合とでは、質的に異なります。

企業はある集団(ターゲット)のニーズに応えておカネになればそれでOKなわけで、その集団以外をあまり気にすることはないでしょう。

なぜなら、民間サービスの場合、その集団以外は別にマイナス効果を生むことはないからです。そして仮にマイナスが出ても、代替手段はいくらでも他のサービスで提供されます。それが市場のメカニズムだからです。

が、政治の場合、ある施策によりこぼれた集団には、恐らくマイナス効果しかありません。代替手段がないからです。東京から出ていく、という選択肢を除いては。

そうなると、マイナス効果が想定される集団をどのように納得させるか、救済策はあるのか、あるいは、切り捨てるのか、というプロセスを外すことはできません。

ところが、その施策が「皆さまの意見を集めて・・・」となってしまっている以上、納得してもらうためには、もはや知事の意志と関係なく、多数決の世界にならざるを得ないでしょう。

そうなれば、もはや実行プロセスなどあったものではありません。

なぜなら、やりたい施策があるのであれば、初期の段階から「実現可能かどうか」が、慎重に検討・調整がなされているものであるものの、多数決によってはじめて出て来たものを「ではやりましょう」となれば、この初期のプロセスを踏まずに進むことになります。

結果、失敗するでしょう。仕事で新規案件を経験したことがある人なら分かると思いますが、どんなことであれ、始めの検討や調整は、無視できないプロセスです。おおよそ、ここを疎かにすると、その案件は失敗するのは経験としてあるのではないでしょうか。

ちなみに、政治においてこの初期の検討段階を飛ばした場合にどうるかは、民主党政権時代の田中真紀子氏がそのよい例となるでしょう。

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ついでながら、この直接意見を募集して多数決の結果出て来たものについて一言述べさせていただきたいと思います。

この手の方法で出てきたものは、ニーズの存在は確実といえます。が、本当に政治としてやるべきかどうかという条件を満たしているかといえば、そうではないと思います。

政治には、鳥の目(長期的展望)、虫の目(短期的展望)という両方の要素を考えねばなりません。虫の目をアピールして見事に失敗したのが民主党でした。

基地問題(国防・外交という鳥の目と、県民の生活という虫の目)、カネのばらまき(国家財政という鳥の目と、当面の国民の満足という虫の目)がそれにあたると言えます。

つまりは、直接意見をきいて多数決でふるいにかけた施策は、「虫の目」であることが多い、というものです。

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長々と書いてきましたが、私は家入氏が当選するとは思っていませんし、氏個人を批判したいわけでもありません。

氏およびその周囲が作り出しそうな空気。これが、かつて民主党が当選したときの選挙の動きと似ていると思い、その動きは明確に危険であり、過ちだと考えます。

よって、それに対する批判をここに残しておきたいと思います。

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