記憶の糸

少し前の話ですが、将棋の世界で、渡辺竜王と人工知能ボナンザとの戦いがあったようです。

勝ったのはもちろん渡辺竜王ですが、この戦いのことが本になっていまして、その中で、人間脳とコンピュータの違いとして、

「大局観」「形成判断」「無用な手を捨てる」というようなキーワードがよく出てきました。

それはつまり、局面々々に応じた​最善手を指せるかどうかにつながる要素です。

どんな局面でもある定義された評価軸からしか指すことので​きないコンピュータは、ある評価に従った場合、「無用な手」がたまたま評価が高かったら、その手を指してしまう。人間なら絶対に指さない手でも。

それゆえに、臨機応変が要求される局面になると、コンピュータは途端に​その弱さを露呈し、人間はその強みを発揮するということでした。

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この動き、仕事でも似ていますね。

課題を解決する手段はいくつもあるのだけど、その最善手段を選び取る判断までなかなか行かない。

たとえば、新人は経験がないから、読む前に自分の思いつきで進めようとする。これは判断とさえ言えない。

仕事上トラブルが多い人は、自分の経験からしか判断しようとしないから、このコンピュータと同じように、あるパターンでしか判断しない。つまりは臨機応変に対応できない。

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顧客の要求を実現する、という目的を考えると、論理的に考え得る解決策はかなり絞られる。自分たちのできることを考えると更に絞られる。時間とカネの制約を考慮すると、ほとんど打ち手は定まってくる。

ところで、この絞るとき、

それはある程度までは半自動で決まる。あたかも将棋の定跡どおりに指すように。

だが最後にしぼるとき、ここには経験・感覚・センスが要求されると思う。

なぜなら、仕事には利害関係者が絡んでいて、それらの人たちの顔が曇らない点でありながら、誰もが納得する最短の手である必要があるから。

このとき、誰かの顔が曇る点が残されていれば交渉に出向く。優劣がつけがたい案が残れば、顧客に判断仰ぐ。
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渡辺竜王をして、「正しく3手読むというのは大変なことである。​・・・相手の最善の応手(2手目)に対して、3手目の正しい手を​発見し、はじめて3手の読みが完成する」とのこと。

さすがにすべてが頭の中で行われるゲームで、「相手の最善の応手」を読むほどの難しさは仕事にはないかもしれません。

が、書いたとおり類似する部分も多いように思われ、、今回思わず出会った将棋の話から、大変勉​強になりました。

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