明けましておめでとうございます。
本年第一回目は、変化の時代を前にして、日本を代表する経営者の対談からです。
この対談は、私が生まれる前のこと。
今から約35年前。戦後30年という時代です。
世界の松下(現 パナソニック)と、世界のソニーのトップ(創業者)同士が対談本を出していました。
盛田昭夫氏と松下幸之助氏の対談本『憂論』
書籍のタイトルは『憂論』です。
そのお二人が対談している内容とは、当時の日本の状況についてなのですが、これらの中で二つの部分を抜粋しておきます。
■国際社会の中の日本
■日本の社会状況。アメリカ占領政策の病根
国際社会の中の日本
日本は、食っていくためには、世界中から物を輸入して
また売っていかなければならない。むしろ日本の方が、
積極的に国際社会の中に入っていかなくてはならない。
・・・中略・・・
やはり、経済であろうが、外交であろうが、日本だけ
で通用するルールではなく、国際的に通用するルールに
のっとって…
そいう自由経済のルールから外れるようなことを考える
政治家が一部にはありますね。そのようなことがないよう
に、経済界でやはり注意しなくてはいけませんね。
経済活動をさかんにすることを、あたかもエゴのために
やっていると考える。これは一種の錯覚ですね。そういう
ことのないようにしないといけない。
それにはやはり経済のことをもっと知ってもらわなくて
はいけませんね。
経済人でも、外国と商売をしている人たちは、これは
やはり国際的にものを考えざるをえない立場にあるわけ
です。
ところがそういう関係にない人たちになりますと、やはり、
日本だけが勝手にいけばいいじゃないかというような気分
が出てくると思うのです。
しかし私は、日本という国が、われわれがこうやって
食っていくためには、ほんとうに国際的な交易というもの
がなければ生きていけないものだという現実を、本気に
なって認識する必要があると思います。
日本の社会状況。アメリカ占領政策の病根
ところで二千年の歴史が日本にはありますが、
それが敗戦で断絶していますね。
あのときにはGHQが来ていろいろ日本の法律だとか、
教育だとか、そういうものを全部変えてしまった。
そして民主主義というものを教えるつもりだったん
でしょうけれども、私はその教え方が非常に間違って
おったというような気がするのです。
・・・中略・・・
三十年間は少なくとも日本の伝統をひきついだ人が
日本を指導してきたからここまでこれたけれども、
いよいよ三十年たちますと、これは一世代です。
一世代変わってきますと、もうその二千年の伝統
というか、いい意味の国民の力といったものを知ら
ない人たちがだんだん日本の大部分を占めてくる
ことになります。
そうなると、もう非常に問題が大きいですね。
(国家ビジョンの欠落や、長期計画の無さ、政治的
混迷を見るにつけ、)
ある意味でいうと、三十年たって、いまようやく
アメリカの占領政策の目的が達成されたといえますね。
アメリカは善意でやったのかもわからないけれども、
善意でも日本には向かないことをやって、三十年たって
それが成功した。
日本は三十年間気がつかなかった。
・・・中略・・・
日本の良さを正しく生かして行こうということになって
くれば元に戻るとは思いますが、もし気づかないでこの
まま進んでしまうならば、ほんとうの敗戦の苦しみとい
うものがこれからいろいろな面で出てきますよ。
早く国民一人ひとりが良識にめざめる必要があります。
・・・中略・・・
いままでの三十年間は戦争には負けたけれども、要するに
その前の二千年の遺産で食っていたようなものでしてね。
ところが今、その遺産を食いつぶして、いよいよここで
敗戦のほんとうの苦しみがこれから出てくるというよう
な時代になってきたと思うのです。
…ですからこの際、政治といわず、教育といわず、経済と
いわず、社会制度全般について、すべてやり直しをしなけ
ればいけない。
全部抜本的に、思い切ってやらなければならない。
そういう時期に来ていると思いますね。
果たしてそういうことができるかどうかということが、
いまわれわれに課せられた非常に大きな問題ですな。
アメリカによる歴史破壊は、当時は経済人も分かっていた。が、最近は・・・
上記の部分は抜粋ですが、本書には鋭く、今の日本にそのまま当てはまるような指摘が随所にちりばめられていました。
最近の経営者は「ビジネスをするうえで上手くいくためには」、という行動原理でのみ動いている印象で、この盛田昭夫氏や松下幸之助氏のような認識があるのか、と疑問に思います。
私が知る範囲では、特にひどかったのが丹羽宇一郎氏という伊藤忠商事の元トップですが、中国という価値観の全然違う国に対して、日本の金儲けという価値観軸からのみご自身の考えを述べられていたように思います。
この方はそういう発言が功を奏したのか、民主党が政権をとったときに駐中国大使になりましたが、結局は何もできずに表舞台から消えた記憶があります。
やはり、ソニー・松下クラスの両巨頭の危機意識は、今の日本にも全然通じており、その慧眼たるや敬意を表せざるを得ません。
私自身、気持ちを引き締めて行きたいと年始に思うのでした。